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2026.08.22 — RADIO COLUMN

110分のAI長編映画を成立させた制作手法──Higgsfield事例を読み解く

プロンプトから制作ログまで全公開された110分のフルAI映画。その裏側にあった「一貫性を守る技術」を、実制作者の視点で解説します。

110分のフルAI長編映画が公開された

動画生成AIサービスのHiggsfieldが、実写キャストの肖像と音声を正式にライセンスしたうえで、110分の長編映画をフルAIで制作・公開しました。制作費は約200万ドル、日本円で約3億円強。そのうち約半分がAIの計算コストに充てられ、28人のチームが約4週間で100か所以上のロケーションと約1000点の制作アセットを用意したと公表されています。従来の実写映画で同等のクオリティを目指せば桁違いの予算が必要になることを考えると、コスト構造そのものが変わりつつあることを示す事例です。映像制作の費用感についてはこちらの記事でも整理していますが、注目すべきは金額以上に、プロンプトやキャラクターシート、制作ログまでが無料公開され、ワークフローとして再現可能な形になっている点だと私は考えています。

キャラクターの一貫性は「事前準備」で決まる

この映画から学べる最大のポイントは、生成の巧さではなく、生成前の準備の徹底ぶりです。キャラクターシートでは、全身を映すカットではあえて顔を外し、服装などの特徴をテキストでも補足することで人物の同一性を保ちます。さらに驚いたのは、笑顔専用の参照写真を別途用意していたことでした。笑った瞬間に歯や顎の形が変わり別人に見えてしまう問題を、事前の参照素材で防いでいるのです。そしてアセット完成後には、走る・話す・泣く・笑うといった複数の動作を別角度・別背景で何度も生成する「ストレステスト」を行い、動いても同一人物を維持できたアセットだけを本番に採用しています。

事前準備参照素材二重指定画像+テキスト動画で検証一貫性を確保
一貫性を守る3段階ワークフロー

私自身、室内で二人の人物が会話する場面で、机や窓の位置が途中で変わってしまう問題に何度も悩まされてきました。本作にその違和感がほとんどない理由が、この事前検証の徹底にあったのだと納得しています。

背景と空間をテキストで固定する

背景の作り方も示唆に富んでいます。まず構図となる背景画像を作成し、それを動画生成で360度回転させるように動かして多数のスクリーンショットを取得。得られた複数角度の背景画像をシーンごとに参照素材として添付します。加えて、背景の内容や「ソファーの右側」「窓の手前」といった人物配置をテキストでもアンカー指定することで、画像と言葉の両面から空間を固定します。同じ場所でも昼・夜・雨では別のロケーションアセットとして作り分けるという手間も惜しんでいません。この背景ワークフローは、今すぐ実務に取り入れられる部分だと感じています。

プロンプト設計は演技指導そのもの

プロンプトはワンショットを15のブロックで設計し、レンズの種類だけでなく画角や被写体距離、ボケの量まで指定する細かさでした。特に感心したのは演技の指定方法です。「悲しい」「怒っている」といった感情語を使わず、瞬き・顎・呼吸・視線・指・肩といった身体の動きに変換して記述し、さらに10〜15ビートに区切って動作やセリフのタイミングを設計する。キャラクターごとに立ち方や癖をまとめたプロフィールを持たせ、シーンをまたいでも人格がぶれないようにする。これはまさに、AIに対して俳優への演技指導を行う監督の仕事です。当社がCM・PR動画制作で追求している「感情を動かす映像」も、こうした緻密な設計の積み重ねの上に成り立ちます。技術が均一化していく時代だからこそ、準備と設計の質が映像の説得力を決める──この事例はそのことを明確に示していると考えています。

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