自分史上最高と思える作品を仕上げたからこそ気づいた、「面白さ」と「見てもらえること」がまったく別の課題であるという発見についてお話しします。
私は現在、劇場イベントでの上映に向けて、全編を最新の動画生成AIで制作した作品を仕上げています。細かく見れば粗はあるものの、制作した本人ですらAI製と気づかないほどの完成度に到達しつつあり、個人でも劇場版に近いクオリティを実現できる時代になったことを、日々の制作を通じて実感しています。AIクリエイターという肩書きから「AI」という言葉が薄れ、ただのクリエイターに近づいている感覚すらあります。
ところが、完成に近づいた作品を冷静に俯瞰したとき、あることに気づきました。この作品は面白い。しかし「これを見始めてもらえるか」というと、それはまったく別の話だということです。作品の面白さと、視聴という最初の一歩を踏み出してもらえるかどうかは、切り分けて考えるべき別々の課題なのです。
普段から配信サービスで映画をよく見る私でさえ、「これから2時間の映画を見よう」と決断するのは意外とハードルが高いものです。失敗したくない、自分の好みに合うものを見たいという心理が働くため、見始める前の壁は作り手の想像以上に大きい。だからこそ、たまたま市場と感性が一致する一部の天才を除けば、多くのクリエイターには「見る」という最初の一歩を後押しする努力、すなわちリサーチに基づいた企画設計の努力が欠かせません。
これは作品そのものの完成度とは別のレイヤーの話です。市場や視聴者が今何を求めているかを調べ、そこから逆算して企画の方向性を決めるという地道な作業が、視聴の壁を下げる根幹になります。
たとえば話題のドラマを切り口にしたAI動画が、ほぼ新規のチャンネルにもかかわらず公開2日で約10万再生に達した例があります。チャンネルの力ではなく、既に注目が集まっている題材を起点にした企画とAI動画のクオリティだけで数字を伸ばしている点が印象的でした。また、過去にヒットした世界観を発展させ、市場にニーズがあるテーマへ再設計した動画が1週間で100万再生を超える勢いで伸びている例もあります。いずれも、内容の面白さ以前に「中身を見る前に、見たいかどうかは決まってしまう」という事実を示しています。キャラクター設計や世界観、企画の切り口によって、視聴の意思決定は再生ボタンを押す前にほぼ完了しているのです。
今回の私の作品は、自分が作りたいものを起点にした発信であり、市場のニーズから逆算した企画ではありませんでした。発信すれば一定の評価は得られるとしても、それは真に「見させる努力」ができている状態とは言えません。この逆算の発想はYouTube運営では当たり前に意識してきたことでしたが、AI映像という文脈ではすっぽり抜け落ちていたことに気づかされました。
これは企業の映像活用でも同じ構造です。どれだけ高品質な映像を作っても、視聴者が見たくなる企画設計がなければ届きません。当社がCM・PR動画の制作で企画・脚本の設計から入るのは、まさにこの理由からです。次の作品づくりでは、この逆算の視点をあらためて大切にしていきたいと思います。